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多くを背負いながら私たちを育ててくれた
父のことをもっと理解できるようになりました。

文章になると、冷静に頭に入りますね

【姉】これ、すごくいいわ。字が大きくて、読みやすいし。


【父】長い間、いろいろと聞いていただいて、本当にありがとう。何度も何度も校正を出してもらって、本当に親切にやってくださいました。


【妹】写真が多くていいですよね。これを見ると、お父さん、八面六臂の活躍ですごい活動する人みたい。こんな写真があったんだ。


【姉】写真は60枚入っているんだけど、バランスがいいから、うるさくないよね。普通こういう写真って、亡くなってから、「もっと話を聞けば良かった」と悔やみながら、しみじみと整理するものですよね。
 だから、生きているうちにできて本当に良かった。


【妹】お父さんの話は、同じ話の繰り返しが多いし、話があっち行ったり、こっち行ったりするから、他の人が聞いたら、全然わかんないと思うの。それをよくこういうふうにまとめたって、本当に感心しました。


【姉】そこがプロなのよね。


【編】これまであまりお父さんの昔話を聞いたことがなかったと聞きましたが。


【姉】特に戦争の話って、悲惨だし、楽しい話じゃないでしょ。それを食事の時間に何度もするの。そういう暗い話を何度もされると嫌気がさします。だから、父の昔話を、これまでまともに聞いたことがなかったの。
 私も歳を取ったから、だいぶ聞けるようになったと思うんですけど、今になっても父の話を、こんなふうに何時間もじっと聞くことはできないと思うの。聞こうと思っても、同じ話が繰り返されると、また嫌気がさすと思う。
 でも、文章になると、客観的になるというのか、父から直接聞くのと違って、冷静に頭に入りますね。


【姉】私には、お父さんが元気なうちに、話をちゃんと聞こうという使命感みたいなものがあったんです。それで、2年ほど前から「父の話」というファイルを作って、メモを貯め始めました。でも、私も仕事があるから、なかなか続かない。やり遂げる自信が無くなったところに今回の話があって、すごく肩の荷が降りた感じです。


【姉】あなた、偉いわね。私には、そんな考えは全くなかった。そんな昔の話を聞いて何になるのって感じだったもん。

この父の子であって良かった。

【編】聞いてみてどうでした。


【姉】私にとって戦争とは過去のことで、戦争というと、大勢の人が死んだとても悲惨なものという見方しかなかったんです。でも父のこれを見ると、もちろん大変な状況なんだけど、楽しみに出かける場面があったり、恋愛があったりと、自分がこれまで考えていた戦争とは違った面が見えたように思いました。

 その中で父は、大変な状況から逃げ出そうとするのではなく、心を失うのでもなく、人としての優しさを保ちながら、一生懸命生きてきたんだということがわかって、私は本当に良かったと思いました。


【妹】貧しかった父の子ども時代をはじめて具体的に知りました。とても貧しく、父のお父さんは大変厳しい人だったようです。小さい頃に受けた仕打ちとか、辛さって一生残るじゃないですか。
 それでも父は、こうした生い立ち、苦しみを背負いながら生きてきて、それを私たちには見せないで、私たちを育ててくれたんだと、あらためて父のことを見直しました。この父の子であって、本当に良かったと思いました。
 これを読んで、父のことがはじめて理解できるようになった気がします。


【姉】父のお父さんは早くに亡くなっていたから、小さい頃は苦労しただろうとは感じていました。 でも、細かい話は知りませんでしたし、悪いけど、聞きたいとも思わなかったんです。でもね、これを読んで、今、父がこの歳まで元気なのは、早くに亡くなった父のお父さん、お母さんが、「私たちの分まで元気に」って、天国から見守ってくれているんだ、とそう思います。ね、お父さん。


【父】不思議なんだよ。小さな頃のことは何時までも忘れないの。最近のことほど忘れているんだな。子どもの頃に樽前山の噴火を見たことなんか、昨日のことのように覚えているよ。
 小学校6年生で終わって、親戚の家に奉公に出されて、1年働いてもらった小遣いが…


【姉】25銭。何度も読んだから、すっかり覚えちゃった。

生きているうちにできて幸せです

【編】このような形で生い立ちを整理すると、話に筋が通りますから、ご家族の方もお話しに入りやすくなるんですね。


【妹】たいていの人は、良いことしかしゃべらなくって、言いたくないことは言わないまま、亡くなったりしますよね。今回は、こうしたきっかけがあったから、知ることができた話がたくさんあったし、辛い話でも、子として知って良かったって思いました。
そして、父は元気になったと思います。
言葉もすらすらと出てくるし、色つやも良くなった。1年前はもっと病気ぽっかったのね。今はすごく自信にあふれているもの。


【姉】生きているうちに、自分の人生を振り返る機会を持てたというのは、父にとっても、私たちにとっても、とても幸せなことだったと思います。
 自分の力では、ここまでまとめられないから、ほんとうに良いご縁をいただいたと思います。


【父】本当に、どうも、どうもありがとう。
 手を合わせて、心から感謝いたします。ありがとうございました。